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近年、X(旧Twitter)でたびたび話題に上るのが「飲み会残業」という言葉です。
上司や同僚との飲み会が、あたかも業務の一環として半ば強制的に設定される状況を皮肉ったワードで、働き方改革が叫ばれる時代に逆行する文化を象徴しています。
さらに最近では「残業キャンセル界隈」というユニークな表現まで登場しました。こちらは「残業を断る」「予定された残業を回避する」といった行動や発信を面白おかしく共有するムーブメントで、従来の“残業は当たり前”という古い価値観からの脱却を示しています。
本記事では、これらの言葉が生まれる背景と、労働法的な位置づけ、そして今後の働き方との関わりについて整理してみます。先日触れた「飲み会の時間は労働時間に当たるのか?」というテーマともつなげながら考えていきましょう。
飲み会は「仕事」か「余暇」か
労働基準法上、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。したがって、形式的に就業時間を終えた後であっても、参加が事実上強制される飲み会や懇親会は、実質的に労働時間に当たる可能性があるのです。
もちろん「完全に自由参加で、行かないことに不利益がない」場合は労働時間とみなされません。しかし、日本の企業文化においては「断ると評価に響くのでは」「空気を読んで参加しなければ」などといったプレッシャーが根強く存在してきました。こうした暗黙の強制力が、SNSで「その飲み会残業代でますか?」という上司への質問のような、詰めの言葉を生み出した背景にあります。
「残業キャンセル界隈」という新しい潮流
一方で、最近話題を集めるのが「残業キャンセル界隈」というワードです。これはXで「今日は定時で帰ります!」「残業キャンセル決めた!」といった投稿にハッシュタグ的なニュアンスを加えたもの。いわば“定時退社宣言”をポップに共有するカルチャーです。
従来の職場に対するイメージでは「予定された残業を勝手にやめるなんて非常識」と受け取られることも少なくありませんでした。しかし、働き方改革への拡大解釈やZ世代特有の価値観の広がりによって「自分の時間を守るのは当然」という認識が広がりつつあります。
その結果、“残業をするのが当たり前”から“残業をしないのが当たり前”へと空気が変わりつつあるのです。
ちなみにキャンセル界隈とは?
風呂キャンセル界隈と言う言葉が生まれたのは2024年中盤でしょうか。
「風呂キャンセル界隈」というSNS上でミームとか下ワードは、疲れて風呂に入るのが面倒くさい、風呂に入る気力がない人たちが、Xなどで宣言して風呂に入らない意思表示の投稿などで生まれたもの。
日常的に当たり前にしている入浴をキャンセル・・・ただの不潔なのですが、それをポップに反骨心を表わしつつ、同意や協調を誘う絶妙なワードとしてミーム化したものです。
若干の自虐と嘲笑を含む表現であり、残業キャンセル界隈と言うワードも、義務として残って仕事するのを断って帰るオレカッケーという感じも透けて見える絶妙なワードセンス。
そして、無駄に残業させるような業務の廻り方をしている会社が悪いんじゃ!という会社経営の痛い所を突きつつも、若干他責思考であるところも面白いところです。
ですが、このキーワード、労務管理する立場の人間からすると見過ごしておいていいわけでもありません。
両者に共通するのは「労働とプライベートの線引き」
「飲み会残業」と「残業キャンセル界隈」という一見相反する言葉ですが、根底には共通するテーマがあります。それは 労働とプライベートの境界線をどう引くか という点です。
- 飲み会残業:プライベート時間を侵食する会社文化への批判
- 残業キャンセル界隈:労働時間の延長を拒否し、自分の時間を守る意思表示
どちらも「会社に縛られすぎない働き方を望む声」の現れと見ることができます。特にSNSで拡散されることで、同じ価値観を持つ人たちがつながり、ムーブメントのように広がるのも現代的な特徴です。
企業側のリスクと対応
労働法的な観点からすると、飲み会の強制参加や、暗黙の残業強要はリスクでしかありません。万が一、労働基準監督署や裁判で争われた場合には、企業が不利になる可能性が高いからです。特に「飲み会残業」が労働時間と認定されれば、未払い残業代の請求につながるケースも考えられます。
また、「残業キャンセル界隈」に象徴されるような定時退社の動きを無理に抑えつけることは、人材の離職や採用難にも直結します。働き手が選択肢を持つ時代においては、「残業前提」「飲み会前提」のカルチャーはますます通用しなくなるでしょう。
残業への強制力は無視してはいけないが
日本の法律において、会社が従業員に残業を命じることは、一定の要件を満たしている限り、原則として合法です。そして、従業員はその命令に従う義務があります。
残業命令の強制力
会社が残業命令を出すためには、以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。
- 就業規則や労働協約に規定がある場合: 多くの会社の就業規則には「業務上の必要がある場合は、所定労働時間を超えて労働を命じることがある」といった旨の規定が含まれています。この規定がある場合、会社は従業員に対し、残業を命じる法的根拠を持つことになります。
- 労働契約書に規定がある場合: 入社時の労働契約書に、残業についての同意が明記されている場合も同様です。
- 36協定が締結・届け出られている場合: 労働基準法第36条に基づき、会社と従業員の過半数代表者(または労働組合)が「時間外・休日労働に関する協定(36協定)」を締結し、労働基準監督署に届け出ている必要があります。この協定は、会社が従業員に法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させるための前提条件です。36協定がなければ、原則として残業命令は違法となります。
これらの要件を満たした上で出された残業命令は、業務命令の一環として法的な強制力を持ちます。
残業命令を無視してはいけない理由
正当な理由なく残業命令を拒否することは、以下のリスクを伴います。
- 業務命令違反による懲戒処分の可能性:
- 正当な理由なく残業命令を拒否することは、就業規則で定められた「業務命令違反」に該当する可能性が高く、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。
- 懲戒処分の種類は、戒告、減給、出勤停止、そして最も重い場合には解雇にまで及びます。特に、業務に多大な支障をきたすような悪質な拒否行為と判断された場合、懲戒解雇もあり得ます。
- 協調性・信頼関係の低下:
- 残業命令の拒否は、チームや部署の業務遂行に支障をきたし、同僚に負担をかけることになります。これにより、職場での協調性が低いと見なされ、周囲からの信頼を失う可能性があります。
残業命令を拒否できる「正当な理由」
ただし、以下のようなケースでは、残業命令を拒否することが「正当な理由」として認められる可能性があります。
- 身体的・健康上の理由:
- 医師からの診断書があるなど、健康上の問題で残業が困難な場合。
- 育児・介護の理由:
- 育児や家族の介護が必要であり、残業によって生活が著しく困難になる場合。法律(育児・介護休業法)で保護されるケースもあります。
- 違法な残業命令:
- 36協定が締結・届け出られていない場合。
- 36協定で定められた上限時間を明らかに超える残業を命じられた場合。
- 業務上必要性がないにもかかわらず、嫌がらせなどの目的で残業を命じられた場合。
これらの正当な理由がある場合は、会社にその旨を具体的に説明し、理解を求めることが重要です。
これからの「働き方」とは
飲み会文化を完全に否定する必要はありません。仲間との交流や情報共有の場として、ポジティブに機能することもあります。しかしそれはあくまで「希望者が楽しめる余暇」であるべきです。業務の延長として強制されるものではなく、プライベートの選択肢の一つとして存在すれば十分でしょう。
残業についても同じです。業務が逼迫するタイミングで社員が協力し合うことは当然あります。しかしそらの残業をするということは「例外的な対応」であり、恒常的な長時間労働や“残業ありき”のマネジメントは見直されるべきです。
むしろ「残業キャンセル界隈」のように、堂々と自分の時間を優先できる文化の方が、長期的には組織の健全性や生産性を高める可能性があります。
まとめ
- 「飲み会残業」=会社文化がプライベートを侵食する象徴
- 「残業キャンセル界隈」=労働者が自分の時間を守ろうとするムーブメント
- 両者に共通するのは「労働とプライベートの線引き」
- 企業にとってもリスク管理と人材確保の観点から無視できないテーマ
SNSで生まれる言葉は、一見するとネタやジョークのように思えます。
しかし、その背景には確かな社会的変化があります。「飲み会残業」「残業キャンセル界隈」という二つのワードは、まさに日本の労働文化が転換点を迎えていることを象徴しているのではないでしょうか。
これらの残業に対する考え方の広まりを踏まえて、社労士試験の問題文にアレンジして出題される日も近いかもしれませんね。
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